かわさきマイスター活動レポート
極めて優れた技術や卓越した技能を発揮し、市民生活を支えるものづくりの匠として、川崎市が認定した「かわさきマイスター」。12人のかわさきマイスターが、他の分野のマイスターのもとを巡る「第2回かわさきマイスター訪問バスツアー」が、平成24年3月12日に行われました。
今回の訪問企業および「かわさきマイスター」は以下の通りです。
1. 日本プロセス株式会社(高津区下野毛1-2-19) 流石 栄基さん(印刷技能士・平成17年度認定)
2. 株式会社和興計測(高津区久地864-1) 堺 昭二さん(施盤工・平成15年度認定)
3. 有限会社関戸(多摩区登戸新町67-1)
※訪問先は工事現場の満願寺(横浜市青葉区あざみ野4-27-6) 関戸 秀美さん(神社寺院銅版屋根工事・平成13年度認定)
訪問見学する12人のマイスターの方々はJR武蔵小杉駅集合
バスで出発です
このバスツアーは、かわさきマイスターの所属する会社の事業内容を社長もしくはマイスター自身が行い、自身の仕事のポイントを職場の見学と共に紹介、最後は見学しているマイスターとの質疑応答を行う、という流れで行われました。
その道を極めた者同士、肝胆相照らす有意義なツアーとなりました。
日本プロセス株式会社・高津区下野毛1-2-19
流石 栄基さん(印刷技能士・平成17年度認定)
日本プロセス株式会社の会社に到着
平成17年度にかわさきマイスターに認定された流石栄基(さすがえいき)さんが勤務する日本プロセス株式会社は、依頼されたものを注文通りに製作するだけではなく、マーケティングからその印刷物の企画、コンセプトづくりとそれに沿ったデザイン制作等のコンサルティングも行い、そして印刷、更にはデリバリー(配送)まで行う総合印刷会社です。印刷に関しては、デジタル化-IT化する中で最先端の印刷機械と高度な印刷技術を駆使し、実物に迫る再現を追及しています。
印刷で実物を実現する難しさを説明する
流石さん
印刷技能士である流石さんは、カラー印刷における色の再現を得意分野としており、スキャナーを媒体として色分解する卓越した技能をもった職人で、カラースキャナー1級技能士の資格をお持ちです。
印刷は4色を組み合わせたアミ点からできており、スキャナーによって色分解された原版のデジタル情報を絵画や写真の作家のイメージする色となるようにアミ点を調整していきます。これは人間の高度なセンスを必要とする技術です。
例えば、岡本太郎氏の作品をポスター制作したときは、12色のインクジェットプリンターを使用しているそうなのですが、原画を忠実に再現するために、流石さん自身が美術館に通い、実物を記憶して、それを基準に色調を調整されたそうです。
流石さんは現在、世界的なアーティストのポスターや画集・写真集の印刷を手がけていて、2008年国際カレンダー展では銀賞を受賞されました。
パンフレットの色修正の違い
別の印刷物の事例では、撮影された写真をそのまま印刷したものと、流石さんが調整したものを見せてもらい比較しましたが、その差は歴然としていました。流石さんの印刷物は、暗かったものが明るくなり、濃淡がきつくなっていたものがソフトになっていたり、不鮮明だったものが鮮明になっていました。
機械を使いこなし、あるべき像を見つけ、最終的に判断するのはやはり人間の感覚だとおっしゃっていました。
コンピューター室では印刷前の様々な
シミュレーションによるデザイン企画
がなされています。
きれいな職場
次に様々な印刷機を見せてもらいました。
CTP(刷版)
印刷工場現場
印刷工場現場
入場券の裁断
入場券の裁断の様子
パンフレットを折り、
一定の数でカウントし区切る機械
見学が終わり、最後に見学のマイスターからお礼と下記のような感想が述べられました。
・アルミにも印刷できますか。市の建物の表影板に印刷できますか。
・印刷技術の発達に驚いた
・会社がきれいなのに驚いた。技術もすごい。
・清潔な工場で印刷屋さんのイメージが改まった。自分の立ち位置も見えてきたような感じがする。
・目が点になった。すごい技術だ。共通する機械があった。感心した。
・私も5色を使って仕事をしているが、今後応用できるかもしれない。
・色への追求はどこか通じるものがある。苦労がよく分かる。勉強になった。
・色の出し方になるほどと思った。インクジェットが初めて理解できた。設備がきれいだ。
従業員のしつけが行き届いている。整理整頓が全員よくできている。
・よいものを見せていただいた。
・自分が使っている印刷機よりすばらしい。パソコンを駆使してビジュアルに挑戦したい。
株式会社和興計測・高津区久地864-1
堺 昭二さん(施盤工・平成15年度認定)
平成15年度にかわさきマイスターに認定された堺 昭二(さかいしょうじ)さんの所属する株式会社和興計測は一言で言うと、液面計と液面制御機器の専門メーカーです。
取引マーケットは電力関連、建機、油圧、薬液、塗料、食品、酒造、印刷、新聞輪転機、排水、下水、汚泥処現場、鉄鋼関連、石油精製関連等、要するに水、油、薬品、塗料等の液体量の測定器機と制御機器の開発、製造販売、設置、検査、メンテナンスを行っている会社です。注文先の計測器を設置する設備の状況はそれぞれであり、計測器も一様ではありません。当社はオーダーメイド生産を主として、お得意先の無理難題に適応するための企業努力によって成長してきたそうです。
和興計測の社屋
歓迎のあいさつと会社概要を説明する
五十嵐祟社長
社長からレクチャーを受ける
訪問マイスターの方々
製品類のPRポスター
様々な測定の装置、部品
測定の仕組みを説明する五十嵐社長
個別注文品だけに仕上げ部分は
手作り作業となる
堺昭二マイスター
堺さんは当社で施盤の仕事で活躍している方です。施盤とは、工作物を回転させ、往復する台上に固定した刃(バイト)を前後左右に動かし、工作物に当てて切削して、ねじ切りや、穴開けに用いる工作機械です。
堺さんは、不定形で複雑な形状の製品を熟練の技で極めて精密かつ高品種なものに加工することができます。複雑な注文品には作業方法を詳しく考案すると共に、治工具、刃を自ら開発します。少量多品種、そして信頼性が欠かせない当社ではなくてはならない存在です。
作業現場で作業する堺さん
切削作業
(金属の切りクズが飛び散るため
網越しでの撮影)
最後の感想会での訪問マイスターの方々の感想です。
・すべてが電子化されている現代、液面センサーのように機械式のものの良さには驚いた。
・堺マイスターの自信あふれた揺るぎない仕事っぷりに励まされた。
・70歳の堺さんの現役バリバリの姿、自分も頑張りたいと思った。
・社長を始めとした会社全体の売り込みの気概がすごい。また、堺さんの仕事意欲には頭が下がった。
・堺さんの元気には敬服した。私の仕事である時計はアナログ、ひょっとして相談することがあるかも。
・私の仕事は着物の染色だが、その折比重計を使っているが、どんな計器があるのか。
・もっと現代的なものと思ったが、意外とアナログ形式なので驚いた。自分の仕事もアナログ機械。
社長の前向きな姿勢に感銘を受けた。お互いに後継育成にがんばりたいものだ。
・職人として通じるものがある。
・熟練の仕事、やはり職人だなと同感を得た。
・堺さんの器用さには驚かされた。
・前社長の時代に一度は来たかった。ローテクの仕事、職人の心意気を強く感じた。
有限会社関戸・多摩区登戸新町67-1(訪問先は工事現場の「満願寺」(横浜市青葉区あざみ野4-27-6))
関戸 秀美さん(神社寺院銅版屋根工事・平成13年度認定)
関戸マイスターの仕事アルバムの中にある
赤坂璃宮の作り
平成13年度に神社寺院銅版屋根工事の分野でかわさきマイスターに認定された関戸秀美(せきどひでみ)さんは、迎賓館赤坂離宮、鶴ヶ丘八幡宮をはじめ、全国の神社、仏閣、宮殿の修理改修に携わり、技能を研いてきました。特に欄干の架木(ほこぎ)の頭に取りつける銅板飾りである宝珠製作の技能をマスターし、神社・寺院の銅板屋根工事のすべてを芸術的に仕上げます。また、桧皮葺(ひわだぶき)の形状等と銅板葺(どうばんぶき)で作り出す加工にも卓越した技能を持っています。
この日訪れたのは、関戸さんが現在銅板葺の屋根を任されている徳川秀忠ゆかりの由緒ある300年以上の歴史を持つ「満願寺」です。
この仕事の依頼は、住職自らの指名で携わることになりました。普通は一括してゼネコンに依頼するのが一般的だそうなのですが、屋根工事の仕事で不可欠である大工の頭領と一緒に頼まれたとのことです。この頭領は約300の寺の新築・修復の経験をもつ匠で、銅板屋根の下地づくりの大工の技と相まって秀れた仕事ができるから、とのことでした。
去年の3月から下地づくりが始まり、銅板葺は去年の12月から始めています。現在は関戸さん1人で作業をされているとのことでした。
「この寒い時期に、寒風吹き付ける屋根の上の仕事は寒くないですか?」という質問に、「この寒い季節が一番我々の仕事には適している」との答えでした。根を詰めて作業をしているので、少し厚着をしていれば支障はないけれど、夏の暑い時分は銅板の上の仕事だけに耐えられない、と言います。
平たい銅版からたたき出した屋根の1枚
この仕事の銅板は厚さ0.4mmと、厚いものを使用しています。20年前までは0.3mm、現在は一般的に0.35mmだそうです。総使用量は4tにもなります。
屋根は棟から流れ向拝(こはい)から下までのトイにかけて優美な勾配を描きますが、分割した銅板をつなぎ合わせて下地に合わせて葺いていきます。
一枚一枚歪曲し、しかもつなぐための返しが必ずつき、二重の立体曲げが必要となります。それを金槌と数少ない道具でタタキ出します(絞りと伸ばし)。
誠に感と熟練の匠の技と言えます。
銅板屋根葺きの道具
金槌も平らだと銅板が伸びないので、自分用に角度をつけたものに細工し、腕と自分で作った分身の道具で仕事するしかない、と言います。機械はろくなものがない、の言葉が印象的でした。
見学のマイスターの1人が「今度作りましょうか」の発言に「お、頼もしい人が来た」と笑うなど、和やかな雰囲気でした。
棟の頂点、大鬼の下地
これに銅をかぶせます
一の鬼や二の鬼の下地に被せられた銅板
この戸外での伝統建築の見学ツアーでは見学されたマイスターの方々にとっては興味深かったようで、多くの質疑応答で盛り上がっていました。
今年度初めて企画されたこのかわさきマイスター訪問バスツアー。第1回のときと同様に、今回も参加されたかわさきマイスターのみなさんは、自分以外のマイスターが日々作業をしている現場や技術を間近で見ることで、参考になる技術もあれば、その仕事に対する姿勢なども、多くの刺激を受けたようです。
これで今回の見学ツアーは終了となり、溝の口駅で打ち上げの懇親会が開かれたようです。
頂点にいる同好の士としてさぞ盛り上がったことでしょう。