坂道は続くよ、どこまでも
宮前区は丘陵地帯に位置し、坂道が多いところ。区内には公募によって愛称が制定された坂道が18カ所あり(昔からの呼び名を持つ坂道も含む)、それらの坂には命名の由来を記した標識がそれぞれ設置されています。
地域の人々に親しまれ続けてきた18カ所の坂道を上って下って、周辺を散策してみましょう。
昭和22年に開設されたこの坂道の名称は開設に貢献した白井佐吉氏の名前にちなむものです。
平成13年2月1日制定
坂道データ
Data-18
【名称】白井坂 しらいざか
【所在地】犬蔵1丁目
【緯度経度】始点E139.33.56.7N35.35.23.4/終点E139.34.0.8N35.35.30.1
【アクセス】川崎市バス白井坂停留所から始点まで徒歩0分
【長さ】約240m
【形状】始点より緩い上りで、約110m付近で右へ少し大きめにカーブ。終点の手前で傾斜の角度がやや急に。
【様子】道幅の広い2車線。両側に歩道が設けられ、途中までツツジの植え込みが続く。整備中の箇所があり、仮のガードレール(?)が立てられている。交通量は多く、路線バスも行き交う。道沿いに犬蔵小学校が建っているため、車道に「スクールゾーン」の文字あり。
【休憩地】とくになし。
【その他】始点には川崎市バス溝15、溝16系統の「白井坂」停留所、終点には「犬蔵小学校前」停留所あり。終点の道の両側には高いコンクリートの壁がそびえ立ち、切り通しの道であることに気づく。終点から先は南平台方面へ下り坂となる。
始点
途中
終点
散策ノート
開設に貢献した人物の名が残されている坂
収穫があった日に野菜が並べられる
白井坂商店。
それぞれの野菜が袋にたっぷりで安い!
宮前区内の18ヶ所の坂道を散策してきた「坂道は続くよ、どこまでも」。今回は、その第18回目。宮前区の坂道は続いていても、こちらの散策はいよいよ最終回です。
最後に歩いたのは、白井坂。坂名の由来は、昭和22年(1947)に犬蔵交差点から南平台までの道の開通に貢献した白井佐吉氏の名にちなんだとのこと。白井氏とはいったいどのような方なのだろう? と、始点近くに建っている「白井坂商店」で聞いてみることにしました。
白井坂商店の店先には、ナス、トマト、キュウリ、カボチャ、トウモロコシ、ミョウガ、タマネギ、ジャガイモ、プチトマトが並んでいます。
「うちの畑で今朝とれたばかりの野菜を直売しているの。新鮮でおいしいって、みなさんに喜んでもらっているのよ」と、白井坂商店のおかみさん。
昭和48年(1973)に開いたお店の名前は白井坂にあやかったそう。店内では駄菓子、飲料、アイス、たばこなどが売られています。
道路開設記念の碑。
裏側には寄付をした人々の名前が
刻まれている。
「私がここへお嫁に来たのが、昭和34年(1959)。この坂道はすでに通っていたけど、砂利道で道幅が狭かったわね」と、おかみさん。
「まわりに田んぼや畑が広がっていて、木炭バス(※)が1日に朝昼晩と3便だけ走っていたの。犬蔵小学校前停留所の切り通しのところは、昔は両側に木が生い茂っていて、いまのコンクリート壁になったのは、つい最近のような気がするわね」。
そして、白井氏については、「わからないのよねえ。たぶん代議士さんだと思うけど、この道ができたころのことを知っている人はもうほとんどいないでしょうね。あ、そうそう、坂の下に碑が立っているわよ」。
どれどれ? と足を向けると、白井坂の始点から150メートルほど下ったところに「道路開設記念」と彫られた碑。その隣に「衆議院議員 白井佐吉書」の文字がありました。
※木炭の不完全燃焼によって発生する一酸化炭素をおもな動力として走るバス
人の命を守るべく訓練が繰り返されている消防総合訓練場
高所にいるケガ人を背負って
救出するなど、災害現場を想定した
訓練が行われている。1番右が訓練塔。
さて、白井坂を上り、終点からいま来た道を眺めます。と、そこで見つけた坂の下の高い塔。ビルやマンションにしては細長くて、どことなく殺風景。なにやら気になる存在で、再び坂の下へ向かいます。
先ほどの道路開設記念の碑の手前を右折。坂道を上っていくと、左手に坂の上から見た“なにやら気になる塔”が徐々に近づいてきます。赤い消防車に迎えられ、それは「川崎市消防総合訓練場」の地下1階、地上10階建ての「訓練塔」だとわかりました。
火災や地震などの災害から、人々の命や財産を守る消防。高層建築物火災、地下街火災、車両火災など、複雑で多様化する災害に対応していくため、さまざまな訓練を行えるように設けられたのが、この訓練場です。
大規模な災害が発生した際に緊急消防援助隊のベースキャンプとしての機能なども想定されているほか、敷地内には約100立方メートルの防火水槽が設置されています。
宮前区に6つある消防署所のなかの1つ「犬蔵出張所」も併設。車両に5000リットルもの水を積載した「水槽付ポンプ車」が配備され、すぐそばを走る東名高速道路の車両火災などにも対応できるそうです。
川崎市消防総合訓練場に併設されている
犬蔵出張所。
向かって右側が水槽付ポンプ車。
「この消防総合訓練場では放水訓練をはじめ、ヘリコプターやはしご車、ロープを使った高所での救出訓練、発煙筒を焚いた煙の中や熱と煙が充満した地下からの救出訓練など、災害現場に適した消火活動や救助活動の実践的な訓練を行っています」とは、川崎市消防局の風間さん。
「人を救出するには、まず自分の命を守らなければならない。現場は何が起こるかわからないところです。危険な状況でも冷静に対応できる精神力も身につけていなければなりません」。
火災現場では、防火服と空気呼吸器のボンベを装着すると重量20キログラムにもなる重装備で消火や救出活動を行う消防隊員。この訓練場では体力はもちろん、どんな大変なことにも耐えられる強い精神力を養うことも訓練の1つとされているのです。
「救助隊員の養成訓練では人を背負いながら走って、訓練塔を上ったり下ったりするほか、腕立て伏せ、腹筋、背筋、けんすいなどをセットで何十回も繰り返したりする。団体責任で仲間がやり終えるまで全員が訓練を続ける。精神的に追い込まれて何度もくじけそうになりますが、それを乗り越えることによって気持ちが強くなります。消防隊員は人の命を救いたい、人の役に立ちたいという志を強く持っています。その志があるからこそ、つらい訓練を乗り越えられるんです」。
消防音楽隊の演奏とカラーガード隊の演技に感激!!
お腹にびんびん響く消防音楽隊の演奏と
キリリッとしたカラーガード隊の
ドリル演技。かっこいいっ!!
川崎市消防総合訓練場には「川崎市消防音楽隊」の事務所もあります。音楽隊は市内各消防署の消防隊員で編成。非番や休みの日に練習を行い、演奏を通して火災予防をPRすることを目的に、消防出初式や「かわさき市民祭り」といった市内行事など、年間90件以上のイベントに出演しています。
また、フラッグを用いたドリル演技やパレードを行うカラーガード隊「レッド・ウイングス」も在籍。ちょうど訓練場内で音楽隊とともに練習を行っていたので見学させてもらうと、音楽隊の迫力たっぷりの演奏とカラーガード隊の一糸乱れぬ演技に鳥肌が立って立って、背筋がぴんっと伸びる思いがしました。
聞けば、09年11月21日(土)14時から川崎市教育文化会館大ホールで定期演奏会が予定されているとのこと。これはぜひ観に行かねばなりません。
09年7月に散歩しました。
宮前区ガイドブック(宮前区発行)の「宮前区全図」を参考に、坂道の標識が立っている坂の上り始めを始点、その反対側を終点としました。
文・写真・地図:森田奈央 川崎市在住のフリーライター。散歩が好きで、好奇心のおもむくままに日々歩きまわっている。著書に猫を追いかけて歩いた「ネコ路地へ行こう」(小学館文庫)。
川崎市消防音楽隊&カラーガード隊「レッド・ウイングス」
7〜8月の出演予定イベント
7月25日(土) 中野島音楽祭(JR中野島駅前)
7月26日(日) 高津区民祭(高津区大山街道)
8月12日(水) 坂本九さん追悼コンサート(川崎ルフロン)
8月22日(土) 川崎市制記念多摩川花火大会(高津区多摩川河川敷)
8月27日(木) 多摩消防フェア2009(よみうりランド)
詳しい時間などについては、消防音楽隊(電話044-975-0119)にお問い合わせください。